八ッ場ダムで失う「耶馬渓凌ぐ吾妻峡」

一時は凍結が決まった八ッ場ダム(群馬県)建設計画は、
その後の政府の方針転換によって、完成に向けて工事が
進んでいます。それでもこの川にダムをつくっては
いけないと思います。ここで私たちが吾妻川をカヤックで
下って感じたことをお伝えします。

 圧倒される岩肌を持つ「吾妻渓谷」。いろいろな日本の川を
カヤックで下っているが、ここの渓谷は特別だ。まるで生命を
感じるような躍動している岩肌。人を寄せ付けない迫力がある。


半端な気持ちでは踏み入れることが出来ない雰囲気が漂う。
これから吾妻川核心部「吾妻渓谷」へカヤックで突き進む。
断崖絶壁が渓谷出口まで続くため、途中で エスケープ出来る
ルートはなく、何が起ころうとも下り切るしか選択肢はない。
しかしもう迷いはない。出発の前に共にする仲間と何か
あった時のリバーサインを再確認して、ゆっくりとパドルを
水中に入れ、力強いパドリングへ。
この渓谷から重々しく伝わる威圧感を撥ね退けながら慎重に
進んでゆく。カヤッカーしか体験出来ない世界へ。


自然が豊かといわれる群馬県だが、ほとんどの川はダムで

分断されている。ダムが出来るとダム直下は苔が生え、岩は
汚泥でヌルヌルになり、水は淀んだ状態だ。どこの川も
このような状態だ。自然を全く感じない。豊かな山を持つ
群馬県。そこから流れる川は世界に誇れるほど素晴らしい
清流なのに、ダムが出来ると一変してしまう。

この「吾妻渓谷」にもダムができるという。八ッ場ダムだ。

当初は渓谷内にダムを建設する予定が渓谷を残すということ
から、渓谷の上流部に予定地が変更したという。これで
渓谷を残したという国土交通省は実際の川を見たことが
ないのではないか。先にも触れたがダム直下の景観は
激変する。「耶馬溪凌ぐ吾妻渓谷」といわれた景観は
保たれない。「自然保護」吾妻渓谷の魅力」を理解した上で
語ってほしい。

アメリカでは今、国立公園内のダムは撤去する流れになって

いる。日本でも熊本県荒瀬ダムは日本初のダム撤去事例として
注目を浴びている。もうダムによる政策は止め、後世に日本の
素晴らしい川を残したいと、自然の恩恵を受けている私たちは
切実に思う。

話を戻すが、吾妻川は明治時代通船がされ、吾妻渓谷を通り

物資を江戸に物資を供給していた歴史ある川である。荒々しい
渓谷内では度重なる事故に見舞われたと書物に出ている。
カヤックで下りながら、草津地方の生活を支える命がけの
ルートだったと思うと敬意を払わざるを得ない気持ちになった。
今でもその歴史を十分に感じられる素晴らしい渓谷である。


観を守るという一方、今までダム問題に翻弄された地元の
方々の苦悩は大変な思いで、ここまで来たらもう建設すべきだ
という意見もある。特にこの町を歩くと痛いほど感じる。だが
実際この渓谷を目の当たりにした時、中途半端な気持ちから
一気に確信へと変わった。
「やっぱりこの渓谷は絶対に壊してはいけない」。と






下の写真は、吾妻渓谷内にある吐出口の構造物の写真である。

何百年もかけて形成された岩肌に何の配慮もない
コンクリートの構造物。この写真だけで言葉はもう
いらないだろう。